キャンプ発祥の地イギリスにみる、「マイペース」が大事な英国式アウトドアスタイル

キャンプ発祥の地イギリスにみる、「マイペース」が大事な英国式アウトドアスタイル

野営が「キャンプ」と呼ばれるようになったのは19世紀頃のこと。イギリスで産業革命が起こり、機械生産によって工業が発展すると、人々は余暇時間を楽しむことができるようになった。その結果、休日になると人々は街から郊外へと移動し、自然のなかで過ごすピクニックが流行。サイクリングやカヌーなどのアウトドアアクティビティも定着し、テントを張る人たちも出始めるようになる。それまでは軍事行動や生活手段のひとつでもあった野営が、英国人たちによってレジャーのキャンプへと変化させていった。

また、青少年の野外活動を行なうボーイスカウトもイギリス生まれ。ボーイスカウトの起源は、イングランドの軍人にして作家、ロバート・ベーデン=パウエルが1907年にイギリスの小島、ブラウンシー島で実験的なキャンプを行なったのが始まりとされる。翌年にはロンドンにボーイスカウト英国本部を設置。1910年にはパウエル卿の妹、アグネス・ベーデン=パウエルが、ガールスカウトを設立した。なお、余談だが、パウエル卿は日本の武士道を賞賛し、乃木希典陸軍大将とも交流があったという。

 

昨今人気のアウトドアウェア、ギアの多くがアメリカのブランドだけに、「キャンプの本場はアメリカでしょ?」と思っている人が多い。たしかに“本場”と言えばアメリカかもしれない。広大なスペースに大型のキャンプングカーで乗り付けて何日も過ごす。はたまた、大きな庭で親戚や友人を招いてBBQ、いかにもアメリカらしい。

 

でもキャンプ発祥の地、英国人たちもアメリカ人に負けず劣らずアウトドア好き。本場ほどスケールは大きくないが、手入れが行き届いたイングリッシュガーデンでピクニックしたり、紅茶とサンドイッチをもって公園に行ったりと、日常のなかにアウトドアが根付いている。

 

国土の大きさが日本の2/3ほどのイギリスでは、大きなキャンピングカーやトレーラーを使うのではなく、どちらかと言えば日本的なキャンプスタイルが主流。街乗りの乗用車にキャンプ道具を積めて、郊外のキャンプ場へと向かう。キャンプ場は予約制なことが多いのも日本と同じ。高規格とされるキャンプ場には売店を兼ねた受付があり、トイレやシャワー、ランドリーなども備える。ユニークなのはキャンプ場の近くにパブがあったり、フィッシュアンドチップスの販売が場内で行なわれていたりすること。キャンプ場で過ごしていても、やっぱりパブでビールが飲みたい英国人たちは、テントを離れていそいそとパブに向かう。

イギリス南部のWest Sussex州にあるキャンプ場「Blacklands Farm Caravan and Camping」。広大な敷地にフリーサイトあり、電源サイトあり、トレーラースペースありと充実。
キャンプ場でもフィッシュアンドチップス。青空の下、ビール片手に食べるフィッシュアンドチップスは最高。イギリス滞在中の楽しみはビール、パブ、フィッシュアンドチップスに尽きる。それはキャンプ場でも変わらない。

タープよりもツールーム、トンネルテントが主流

日本のキャンプシーンではテントにオープンタープの組み合わせが主流。タープがあれば雨の日でも濡れずに過ごすことができ、テントよりも開放感がある。難燃性のタープなら、雨が降っていても幕の下で焚き火ができるのだから快適そのものだ。

 

一方のイギリス的キャンプスタイルは大型のテントをどんと立てて、そのまわりにチェアを並べるのが一般的。あくまでも居住スペースの主役はテントで、オープンタープを見ることはほぼなかった。英国人は多少の雨なら傘を差さずにフードだけで乗り切る。もしくは小走りで移動し、傘を使うのは稀なのだから、もしかしたらタープを使わないのは傘を使わないから? とも思ってしまう。

イギリスのキャンプ場で見る一般的なサイト。乗用車にテント、チェアのシンプルなスタイルだ。英国人に言わせると「日本人のキャンプはクレイジー。まるで引っ越しだ」とも。

そんなイギリス式キャンプだが、隣のテントサイトとの間に「陣幕」のような敷居(目隠し)を設営する人がとても多い。日本でも少しずつ増えてきた陣幕スタイルだが、イギリスではキャンプ場の受付に簡易的なものが販売されているほどポピュラーな存在。レジャーシート3枚の組み合わせでできた陣幕が、ひとつ2000円ほどで販売されている。人々はこの陣幕を買って、自分や仲間たちとのサイトの囲いを作る。

ところどころに見える陣幕のスペース。この中でBBQをしたり、フットボールしたり、ビール飲んで芝生の上でゴロゴロしたりする。

また、大型テントも日本では見たことがないモデルが多く、多くのキャンパーが空気でたてるエアー式テントを使っていたのも印象的。テントを広げ、ポールの代わりに空気入れでポンピングして設営するこのスタイルは、たてるのは非常に簡単だが片付けるのはなかなか大変なもの…。撤収時に空気が抜けきらず、多くのキャンパーがスタッフバッグに収納するのもそこそこに(チャックが閉まらない)、クルマのラゲッジルームに押し込んでいた。

 

ただ、大型テントは居住性バツグンなのは確か。雨が降ったらテント内のリビングスペースで過ごせばいいというのもうなずける。

テントを広げたら家族みんなでポンピング。日本ではそこまで普及していないが、イギリスでは多くのキャンパーがエアー式テントを利用していた。

イギリス式、無理しないキャンプごはん

「日本人のキャンプはあれこれしなくてはいけなくてとても忙しい」とは、日本でのキャンプ経験がある英国人のコメント。確かに日本だと、キャンプ場に到着したらテントやタープを設営して、お昼ごはんも作って食べて、気づいたらもう夕方で晩ごはんの支度と大わらわ。何かにつけて動いていることが多いのは、きっとあれもこれも完璧にしたいせいだと思う。

 

イギリスでのキャンプは、テントを立てて、チェアを並べたら本を読んだりおしゃべりしたり、ビール片手に芝生でゴロゴロ(ここでも!)したりする。いかにもピクニックの延長のようなリラックスムードで、決して無理はしない。お腹が空いたら持参したサンドイッチを食べて、夕方になったらいよいよBBQ。それでも食材をふんだんに使ったり、スキレットやダッチオーブンで手の込んだアウトドア料理をしたりでもなく、サクっと食べてあとはビール飲む。日本人でも一度このスタイルを体験すると「無理しなくていいんだなー」と、アウトドアでの簡単なごはん(弁当やインスタント)でも気にしなくなるから非常に楽だ。

BBQグリルは小型のファイヤーピットを利用。炭はガソリンスタンドで購入した成型炭で、火のつきがよく、簡単に使える。
パンはツーバーナー(LPガス式)で焼く。トーストしながらお湯も沸かせて、フライパンで他の料理もできる一石三鳥のアウトドアギアだ。
持参した食材をパンで挟んでサンドイッチに。これにBBQで焼いた肉を一緒に食べる。数日このメニューが続くと飽きるので、その場合はフィッシュアンドチップスにゴーだ。
イギリスの伝統的豆料理、ベイクドビーンズも忘れてはいけない。日本人がキャンプ場で白米を食べたりお味噌汁を飲んだり、はたまた蕎麦やラーメンを食べるのと同じ感覚でベイクドビーンズを食べる。スクランブルエッグと混ぜると美味しい。マーマイトを付けたトーストともよく合う。

英国人にとってキャンプは自然のなかで過ごす癒しの時間。過度な快適さを求めるでもなく、便利さを追求したり見た目を気にしたりもない。「のんびりマイペース」な過ごし方が、文化的にも根付いているのだろう。自然に飽きたらパブに行ってビール飲んで、フットボールの話に花を咲かせて再びテントに戻る。ビールだけはキャンプ場でもパブでも飽きずに飲み続けられるのだから不思議だ。



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