世界最古の自動車メーカーとして知られるドイツの名門・メルセデス・ベンツ。現在でこそコンパクトハッチバックの「Aクラス」や小型SUVの「GLA」など、手の届きやすいモデルを多数取りそろえる同ブランドだが、1990年代前半くらいまでのラインナップは、まさに少数精鋭と呼ぶにふさわしいものだった。
主軸は、エントリーモデルの「190E」(「Cクラス」の前身)、ミドルサイズの「ミディアムクラス」(後の「Eクラス」)、フラッグシップの「Sクラス」というセダン3本柱。そのほか、EクラスとSクラスをベースとしたクーペ、2シーターオープンスポーツの「SL」、クロスカントリー4WDの「Gクラス」といった趣味性の高いモデルも取りそろえてはいたが、いずれも生産台数は限られていた。
そんな数少ないラインナップで、メルセデスが自動車ビジネスを継続できたのはなぜか? コストの制約や販売競争が現在ほど厳しくない大らかな時代だったことも理由のひとつだが、最大の要因は何といっても、メルセデスのクルマ作りに対する崇高な信念が各モデルに貫かれていたからだろう。
それは、メルセデスの創始者であるゴットリーブ・ダイムラーが掲げた“最善か無か”という信念。ファクトリーから送り出されるプロダクツは、品質や安全性といったすべてにおいて、最高水準にまで磨き抜かれたものでなくてはならない、という考え方だ。
そうした信念に共感を抱く多くの人々から、高い支持を集めた名車が、1984年の晩秋に発表されたミディアムクラス/Eクラス(W124)だ。11年間のモデルライフにおいて、ステーションワゴン(S124)やクーペ(C124)、カブリオレ(A124)といった派生モデルをラインナップに加え、シリーズ累計273万台以上のセールスを記録。当時のメルセデスのベストセラー記録を塗りかえてみせた。