シンプルでありながら印象的という秀逸なデザインで多くの人を惹きつけた初代TTクーペだが、実はクルマづくりの面においても、世界中の自動車関係者たちに多大なる影響を与えた。
初代TTクーペはオリジナルのデザインを与えられたスポーツカーだが、車体の構造を始めとする基本的なメカニズムは、コンパクトハッチバックのアウディ「A3」や、同じグループのフォルクスワーゲン「ゴルフ」をベースとした。今でこそ、プラットフォームの共用化で多彩なモデルバリエーションを展開することは決して珍しいことではないが、初代TTクーペのデビュー当時は、スポーツカーは専用に仕立てたプラットフォームの上に成り立つもの、との考え方が一般的だった。そんな中にあって、乗用車とメカを共有し、スタイリッシュなスポーツクーペを生み出すという手法は画期的だったのだ。
もちろん、プラットフォームを共用するとはいえ、初代TTクーペはA3や4代目ゴルフに対してホイールベースが90mm縮められていた。そこに、ロー&ワイドというスポーツカーらしいスタイルと、低い車高による重心の低さが相まって、ハンドリングフィールは実にシャープ、かつダイレクト感にあふれるものだった。
そんな基礎体力の充実した車体が秘めるポテンシャルをフルに引き出すべく、初代TTクーペはエンジンも強化されていた。デビュー当初から設定された1.8リッター4気筒ターボは、ホットハッチの雄である「ゴルフGTI」用の150馬力/21.4kgf-mに対して、前輪駆動モデルで180馬力/24.0kgf-mを、4輪駆動の“クワトロ”仕様では225馬力/28.6kgf-mを発生。ほかにも、V6エンジン搭載モデルや、4気筒ハイパワーエンジン仕様も設定されるなど、リアルスポーツカーも顔負けの動力性能が与えられた。
その走りの鋭さは、現代の目で見ても印象的だ。アクセルペダルを深く踏み込めば、コンパクトな車体は弾丸が銃口から弾き出されるかのように強烈に加速する。スポーツカーらしいセッティングが施されたサスペンションの影響で、乗り心地は若干硬めに感じられるが、その分、コーナーが連続する峠道なども軽快に駆け抜ける。