オープンカーのネガを先進技術で払拭したバブル期の傑作旗艦メルセデス・ベンツ「SL」(R129)

オープンカーのネガを先進技術で払拭したバブル期の傑作旗艦メルセデス・ベンツ「SL」(R129)

1989年のジュネーブモーターショーで、メルセデス・ベンツが1台のオープン2シーターモデルを披露した。それが、同ブランドが展開する最高峰のラグジュアリースポーツカー、「SL」の4代目となるR129型だ。車名のSLは、ドイツ語の“Sport Leicht(シュポルト・ライヒト)”、英語でいうところの“Sport Light(スポーツ・ライト)”の頭文字からとられたものであり、軽量なスポーツカーであることを意味している。

 

R129型の第一の魅力は、ロングノーズ&ショートデッキという後輪駆動スポーツカーの基本スタイルに、強いウエッジシェイプを組み合わせたエクステリアデザインだろう。これは、1975年から1999年にかけてメルセデスのデザイナーとして活躍し、後に同ブランドのデザイン担当重役をも務めたイタリア人デザイナー、ブルーノ・サッコによるもので、スポーティかつアグレッシブでありながら、高級車ブランドの旗艦らしいエレガントさも持ち合わせている。

ちなみにサッコは、シンプルな直線基調を採りながら飽きが来ず、それでいて存在感をもしっかり主張していた1980年代から’90年代にかけてのメルセデスのデザイン思想を創出した人物。彼の最高傑作は、メルセデスがコンパクトセダンのカテゴリーに初投入した「190E」と、今回採り上げたR129型といわれている。

 

そんなR129型SLは、メカニズムの先進性においても見どころ満載だった。例えば、ふたりの乗員の背後には、車体が大きな衝撃を受けたり、一定以上傾いたりした場合、瞬時に立ち上がるロールバーを内蔵。

また、ヘッドレストやシートベルトを一体化した専用シートの採用など、オープンカーのネガとされた安全性への対策を隅々にまで施した。

そうした徹底ぶりは、キャビンの快適性追求においても同様だ。R129型は、SLとして初めて電動格納式ソフトトップを採用したが、それとは別に、ソフトトップより遮音性に優れた着脱式ハードトップも装備。また、シートを始めとするインテリアの各部には、レザー、クロスともに上等なマテリアルをおごるなど、高級車ブランドであるメルセデスの面目躍如たる仕上げが施されていた。

■名車に継承された心臓部と世界をリードした足回り

R129型SLは、走りの性能においても注目すべき部分が多かった。土台となるプラットフォームは、W124型「ミディアムクラス」/「Eクラス」のホイールベースを短くしたもので、さらに各部に補強を施すことでオープンカーとは思えないほど強固なシャシーを作り上げていた。

 

上陸当初、R129型の日本仕様に用意されていたパワーユニットは、4973ccのV型8気筒DOHCエンジン。後に、メルセデスとポルシェのコラボによって誕生する名車「500E」/「E500」にも受け継がれるこの名機は、最高出力330馬力、最大トルク47.0kgf-mを発生し、スポーツカーにふさわしい駿足を見せつけた。

R129型は、後に5987ccのV型12気筒DOHCエンジン(395馬力)や、3199ccの直列6気筒DOHCエンジン(224馬力)などもラインナップに追加。さらに1998年には、環境性能を強化した新開発ユニットへスイッチするなど、ユーザーや時代のニーズに合わせた改良を繰り返した。

 

そんなR129型は、コンパクトセダンである190Eへの採用で先鞭をつけ、その性能の高さから、世界中のメーカーがこぞってフォローしたマルチリンク式リアサスペンションを搭載したことでも有名だ。この足回りは、大排気量エンジンが発する強大なパワーをも確実に路面へと伝える優秀さが目を見張った。

■ドライバーの気分に合わせてドライブシーンを彩る

1989年のデビューから早30年余り。初期のR129型は、全長4470mm、全幅1810mm、全高1295mmと、肥大化の止まない現代のスポーツカーと比べれば、はるかにコンパクトなのが印象的だ。

特にワインディングロードをドライブすると、その凝縮感あるボディと秀逸な足回りとが相まって、よりコンパクトなクルマを運転しているかのような錯覚に陥る。長いボンネットの下に重いV8エンジンを積んでいるとは思えないほどフットワークは軽快で、ドライバーがハンドルを切ると素直に向きを変えてくれるのが気持ちいい。

一方、330馬力/47.0kgf-mを発生するV8エンジンは、現代の目で見ても十分パワフル。アクセルペダルを踏み込むと後輪が路面をしっかり蹴り、驚きの速さでコーナーを抜けていく。

 

現代のスポーツカーも顔負けの走りを披露するR129型SLだが、やはり本領を発揮するのは高速道路でのクルージングだろう。特に、ルーフを開け放ち、風を全身に浴びながらのドライブは、何物にも代えがたい心地良さ。速いペースで山道を走って良し、高速道路をゆったり流して良し。ドライバーの気分に合わせてドライブシーンを彩ってくれる。

バブル経済まっただ中の1989年にデビューしたR129型は、日本を始め世界中で人気を獲得。結局、2001年まで12年間に渡って生産されるロングセラーモデルとなった。当時のメルセデス車らしく、各部にコストがしっかりと掛けられ、オーバークオリティであることを一種の美点として掲げたR129型SL。その中身と実力を知れば知るほど、世界のマーケットで再評価されている理由が見えてくる。

TEXT/アップ・ヴィレッジ



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