無骨さと高級感…相反する魅力を兼ね備えた「メルセデス・ベンツ Gクラス(W463型/初代)」

無骨さと高級感…相反する魅力を兼ね備えた「メルセデス・ベンツ Gクラス(W463型/初代)」

クルマは短くて4年ほど、長くても6年から8年くらいのサイクルで次世代モデルへと刷新されるのが一般的だ。その理由は、エンジンやプラットフォームといった機械的ハードウェアと、安全運転支援システムやインフォテイメントシステムといった電子的なソフトウェアとが日々絶え間なく進化しているから。そのためクルマというプロダクツでは、なかなかロングセラーが登場しない。

 

そんな中にあって、メルセデス・ベンツの初代「Gクラス」は、実に39年という長きにわたって人々に愛され続けた稀有なモデルだ。この偉大なるロングセラーのルーツは、メルセデスブランドを展開していた親会社のダイムラー・ベンツ社が、オーストリアのシュタイア・プフ社と協力して1972年に開発を始めた1台の軍用車両にさかのぼる。その車両は後にNATO(北大西洋条約機構)軍に制式採用され、ドイツ語で“オフローダー”を意味する“ゲレンデヴァーゲン(Geländewagen)”という名称で呼ばれることになる。

 

その後メルセデス・ベンツは、1979年に軍用のゲレンデヴァーゲンを民生用に仕立て直したモデルを発表。メルセデス・ベンツ初のクロスカントリー4WD車となる、初代Gクラス(W460型)の誕生だ。

W460型Gクラス 

ちなみに車名にある“G”とは、ゲレンデヴァーゲンの頭文字からとられたものであることはいうまでもない。

■名車に継承された心臓部と世界をリードした足回り

そんな成り立ちを持つ初代Gクラスは、生産・販売が続けられた39年の間、時代の変化に応じたマイナーチェンジを繰り返した。これにより、エンジンや4WDシステムを始めとするハードウェアや快適性を左右するインテリアなどは、デビュー当時のそれから大きく様変わりしている。

 

中でもターニングポイントとなったのが、1989年に行われたW463型へのモデルチェンジだ。4WDシステムはフルタイム式となり、エクステリアではオーバーフェンダーやサイドステップを追加。インテリアもラグジュアリーな仕立てとなるなど、性能向上や居住性の改善が図られた。これにより、質実剛健なプロ向けツールとしての色合いが濃かったGクラスは、プレミアムカーと呼ぶにふさわしいモデルへと変貌。第2世代の誕生といっても過言ではないほどの進化を遂げた。

とはいえ、ラダーフレームを軸とするプラットフォームや、リジッドアクスル式のサスペンション、そして、ボール&ナット式のステアリング機構といった信頼性の高いハードウェアは、ゲレンデヴァーゲン譲りのものを継続採用。群を抜く悪路走破性には少しの曇りも見られなかった。

 

また、ややモダンになったとはいうものの、ボクシーな機能第一のルックスもゲレンデヴァーゲンの時代から不変。フラットなパネルで構成されたボディ、すべて平面タイプとなったガラス類、フロントフェンダー上の無骨なウインカー、リアゲートに備わるスペアタイヤなど、Gクラス特有のアイコンが継承された。

 

つまりW463型となっても、“最善か無か”や“質実剛健”といったメルセデス・ベンツの信念はしっかり息づいていたのである

■プロがお墨つきを与えた機能美

2021年の今、改めてW463型の初代Gクラスに触れてみると、街乗りをメインに開発されたヤワなSUVはもちろんのこと、リアルオフローダーを名乗る他のクロスカントリー4WD車さえも軽く凌駕する、独自の“本物感”に圧倒される。それは、機能第一の軍用車両をバックボーンに持つ正統派だからにほかならない。

 

機能的な形状のドアハンドルを握り、タッチが少し重めのボタンを「カチッ」と音がするまで押すと、「ガチャ」という音がしてロックが外れドアが開く。続いて、運転席に乗り込んでドアを閉めると、今度は重い金庫の扉を閉じた時のように、「ガチャリ」という鈍い金属音が車内に響き渡る。ドアの開閉という何気ないアクションも、Gクラスの場合、重厚な儀式のように思えてくる。

 

走り始めても、そうした印象は変わらない。40年以上前に誕生したモデルとは思えないほどボディが実にしっかりとしていて、舗装の行き届いた現代の道を走る限り、「ミシリ」という音を立てる気配など一切ない。その道のプロが過酷な悪路を走り回っても音を上げぬよう、開発陣が「これでもか!」とばかりにボディを鍛え抜いている光景が目に浮かぶようだ。

 

足回りの印象も、洗練され尽くした現代のクルマとはひと味もふた味も異なる。路面の段差を乗り越えたり、舗装の荒れた道を走ったりすると、時折、ラダーフレームに支えられたボディが揺すられることがある。とはいえ乗り心地は良好で、いかにもラダーフレームを備えたリアルオフローダーらしい、ソフトでゆったりとした乗り味が特徴だ。また、ボール&ナット式のステアリング機構はある程度の重みがあり、ねっとりとしたフィーリングをドライバーに伝えてくる。これを古くさいと捉えるか否かだが、軽く回せるラック&ピニオン式にはない味わい深い操舵感は他に代えがたいものがある。

 

そうした古典的な味わいを残しつつも、随時アップデートが図られたエンジン&トランスミッションは力強い走りを味わわせてくれる。例えば、モデルサイクルの末期に投入された3リッターのクリーンディーゼルエンジン搭載車などは、最高出力244馬力、最大トルク600N・mを発生するだけあって、十分過ぎる速さを披露。変速ショックのない7速のオートマチックトランスミッションと相まって、車両重量が2500kgを超えるヘビー級の車体をグイグイ前へと押し出す。その重厚な加速フィールも、Gクラスの本物感を強める大きな要素となっている。

ちなみにGクラスは、2018年に最新世代へとフルモデルチェンジ。新型はラダーフレームがより強固となり、フロントサスペンションはダブルウィッシュボーン式へと変更され、ステアリング機構もラック&ピニオン式へと改められた。また、初代と酷似したルックスも、サイズがひと回り大きくなったことに伴い、ドアハンドル、スペアタイヤカバー、ヘッドライトウォッシャーノズルの3点を除き、すべてのパーツが刷新されている。

 

これほどの進化を遂げながら、型式名は従来モデルと同じW463型を継承。おまけにドイツ本国では今回の刷新をフルモデルチェンジとは呼ばず、“最新技術を導入したビッグマイナーチェンジ”と位置づけているという。W463型の初代Gクラスが、メルセデス・ベンツにとっていかに重要なモデルだったかがうかがえるエピソードだ。

 

1989年のターニングポイントを経て、芸能人やスポーツ選手、また実業家といったセレブたちから愛される存在となった初代Gクラス。彼らを魅了する要因は、このモデルにその道のプロが認めた、プロがお墨つきを与えた機能美が備わっているからにほかならない。それは強さの証であり、成功のシンボルなのだ。

TEXT/アップ・ヴィレッジ



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