空冷式とはその名の通り、エンジンを直接、空気で冷却する方式で、エンジンのシリンダーヘッドやシリンダーブロックの周囲には、冷却効果を高めるためのフィンが設けられている。エンジンから生じた熱がこの冷却フィンへと伝わり、大気中へと放散される仕組みだ。
ポルシェが長きに渡って空冷式にこだわり続けた理由は、構造がシンプルな点にある。空冷式は、ラジエーターなど重量がかさむ補機類で不要なほか、シリンダーブロック内に冷却水が通るウォータージャケットを設ける必要もないことから、必然的にエンジンの軽量化につながる。軽さはスポーツカーにとって外せない要素だが、当時のポルシェはそうしたスポーツカーづくりの“一丁目一番地”を真摯に追求し続けていたことがうかがえる。
しかし、性能向上とともに、911の水平対向エンジンは発熱量が増大。空気による冷却でそれらをコントロールすることは限界に達しつつあった。さらに、厳しくなるばかりの排出ガス規制に対しても、空冷式は不利とされていた。そうした状況を鑑みて、ポルシェは熟成を重ねてきた空冷エンジンの継続採用を断念。後継モデル“タイプ996”以降は、水冷エンジンへのスイッチを決断することになる。
こうして最後の空冷エンジン車となったタイプ993は、今やポルシェマニアの間で“最後の911”と神格化されている。エクステリアは、一見、“代わり栄えしない”911らしいものだが、実は前身の“タイプ964”に対し、ルーフラインを除くほぼすべてのパーツを刷新。特にリアフェンダーは大幅に拡幅され、グラマラスな曲面フォルムへと生まれ変わった。