Author: 早坂英之

「フィッシュ・アンド・チップス」で知るイギリスにおける伝統的なパブの楽しみ方

「フィッシュ・アンド・チップス」で知るイギリスにおける伝統的なパブの楽しみ方

今も昔もイギリス人にとっての憩いの場所、それがパブ(Pub)。どんなに小さな町や村にも必ずパブがあり、その数は日本でのコンビニエンスストア以上だ。それらパブの多くが古い建物の中にあるのは、地震などで建物が倒壊することなく、かつ、古さや歴史を重んじるイギリスならではだろう。 イングランド南東部に位置する都市、ブライトンにあるパブ「THE HARTINGTON」。文字が崩れ落ちて、地元の人からは「HE TIN TON」と呼ばれている。 もし、現地でパブに行く機会があったら建物のなかにも目を配ってみてほしい。ビール片手に中世からの傷や(おそらく)かつての落書き跡などを、想像を膨らませて見つけるのも一興だ。 日本人にとってあまり身近な存在ではないため、「パブって大人がお酒を飲むところでしょ?」と思っている人が多いかもしれない。お酒を飲むところはそのとおりだが、イギリス人にとってパブは、居酒屋でもあり喫茶店でもレストランでもある。 イングランド南東部ケント州カンタベリーにあるパブ「The Dolphin」の中庭にて。 日中に子どもを連れてパブランチして、食後に休憩がてらパブでお茶して、夜は「誰かいるかな?」と、のぞいてみるのがパブの正しい使い方。夜のパブは何件かハシゴするのが当たり前なので、一日に何度もパブに行く。それだけに、イギリス人にとってはなくてはならない存在だ。 大学の構内にもあるパブ イギリスの法律では18歳からお酒を飲むことができる。そのため、大学の構内(校舎内)にはスチューデントパブがあり、日夜学生たちの憩いの場所として利用されていて、非常に活気がある。いくつもの校舎や寮があるような大きな大学では、それぞれにパブがあって、学部棟ごとのパブハシゴも楽しい。 イギリスの大学は「入るのは日本や韓国よりも難しくないけれど、卒業するのは困難」と、言われているが、パブに入り浸り過ぎて勉強がおろそかになっている学生も一定数いる。 お店の人気を左右するパブランチ フィッシュ&チップスのマッシーピー添え。衣がクリスピーでむちゃくちゃ美味しい。 パブの定番ごはんと言えば、フィッシュ&チップスとサンデーミール。フィッシュ&チップスはご存知イギリスの国民食で、タラなどの白身魚にビールを混ぜた衣を付けて、カリッと揚げたもの。そのフライに大振りなポテトフライを添えて、ビネガーをたっぷりかけて食べるのがイギリス流。なお、日本のファストフードなどで食べる細い形状のいわゆるポテトは「フレンチフライ」と呼ばれる別の食べ物だ。 このフィッシュ&チップスと一緒に食べる、マッシーピー(Mushy Peas)も人気が高い。グリーンピースを潰して味付けしたもの。ミントを混ぜることもあり、香りや風味の良さが魅力。オイリーなフィッシュ&チップスに添えることで、一服の清涼剤的な効果もある。 フィッシュ&チップスはどのパブでも看板メニュー。それだけに「うちのがナンバーワン」「この町で一番の味」と、パブの従業員はもちろん、常連客までもが胸を張る。 パブ以外にもフィッシュ&チップス専門店は街中に無数にあり、ケバブでも深夜まで売っているほど。夜にパブをハシゴして、締めのラーメンならぬ、締めのフィッシュ&チップスもイギリスならでは。ビネガーを浸すぐらいたっぷりかけて、むせるぐらいがちょうどいい。 イギリスの大学は「入るのは日本や韓国よりも難しくないけれど、卒業するのは困難」と、言われているが、パブに入り浸り過ぎて勉強がおろそかになっている学生も一定数いる。 ブライトンの街並み。ちょっと歩けばすぐにフィッシュ&チップス屋さんが見つかる。 一方のサンデーミールは日曜日のお昼に家族でパブごはんする定番メニュー。ローストポークやローストチキンに、シュークリームの皮のようなヨークシャープディングを添えて、肉汁たっぷりとグレイビーソースをかけて食べる、ボリューミーなプレートだ。 イギリスの代表的なサンデーミール。ボリュームたっぷりなワンプレートは、ビールとの相性抜群! ヨークシャープディングをグレービーソースに浸しながら食べる、とにかく食べる。 大抵のパブでは前日までの事前予約が必要。パイントビール(568ml)片手にもりもり食べていると、お店の人が「ヨークシャープディングもっと食べる?」と、サービスしてくれることも。 日本では小さいころから居酒屋に行くことはまれだが、イギリスでパブはごはんを食べる場所でもあるので、子どものころから馴染みが深い。フィッシュ&チップスやマッシーピー、サンデーミールを食べていた子どもたちが、大人になってビールを飲みながら、友だちとワイワイ楽しむ。そのパブには共通してルールがあるのを、ご存知だろうか。 子どもも大人も、日曜日のお昼はみんなでわいわいパブミール。 パブのオーダーは目配せ気配せ 平日週末問わず賑わうパブでは、カウンターまわりに注文待ちの客がわらわらと集まる。どのパブでもその場で注文して、商品と引き換えにお金を支払うキャッシュオンデリバリー方式が基本だ。とはいえ、そのカウンターで飲んでいる人もいるので、パッと見、誰が注文待ちなのかわかりにくいもの。もちろんきれいに並ぶということはない。 では、どのようにして注文できるかというと、お客さん同士でだいたいの順番を理解しており、「Who’s next?(次はどなた?)」「Yes, I am. / me.(私です)」「After you.(お先にどうぞ)」など、声をかけながらオーダーが進む。強引に割り込むとまわりにも迷惑がかかり、何しろ他の人の目線が痛い。注文するためにカウンター近くまで行ったら、まわりの状況を見ながら自分の番を待つべきだ。 また、複数人でパブに行ったら、誰かひとりがまとめて注文しにいくのもパブルール。その際、「My Turn.(僕の番ね)」と声をかけて、人数分おごるのが注文しにいく人の役目。2杯目になると他の人が「My Turn.」「Your Turn.」になって、それが3杯目、4杯目となって、仲間内みんなでおごり合う。そのため、飲み干すスピードを合わせるのが重要で、早い人がいると全員のピッチが自然と上がる。 4人で行って4杯飲んだら(全員がターンを終えたら)、次のパブに向かって、そこでも同じターンの繰り返し。それを2軒3軒と繰り返すうちに、お腹がたぷたぷになってきて、もう量は飲めない! となったときにはショットで乾杯&グイッと飲み干す(繰り返し)。ふらふらになりながら、深夜にケバブでフィッシュ&チップスをオーダーして帰路につく。 もちろんこれは極端に「飲む!」という例だが、それでなくても2軒3軒は当たり前。それでも酔いつぶれる人が少ないのは、イギリス人は体質的にお酒に強いのだろう。なお、パブや道端で酔いつぶれるのはマナー違反なので、飲み過ぎには気をつけるべき。ターンもそこそこに「I’m enough.(限界です)」も必要だろう。もちろん、次の日もパブタイムがあるのだから。…