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ユネスコ世界遺産、英国式聖地巡礼の旅「カンタベリー大聖堂」

ユネスコ世界遺産、英国式聖地巡礼の旅「カンタベリー大聖堂」

イングランド国教会の大本山、イギリス ケント州のカンタベリーにある「カンタベリー大聖堂」。正式名称は「Canterbury Cathedral, St. Augustine’s Abbey, and St. Martin’s Church」だが、地元の人たちは親しみを込めて「Cathedral(大聖堂)」と呼ぶ。 カンタベリー大聖堂の歴史は古く、ノルマン朝の初代イングランド王、ウィリアム1世(1087年没)の命にて建立され、ウィリアム1世の死後、1130年に完成した。元々はローマ・カトリック教会の一部だったが、1534年にローマ教皇庁からイングランド国教会が独立。カンタベリー大聖堂はイングランド国教会の総本山となった。なお、イングランド国教会の首長は現エリザベス女王(エリザベス2世)である。 見るも美しく、重厚な佇まいのカンタベリー大聖堂は、補修工事を繰り返しながらも当時のゴシック様式建築を維持し、中を訪れると、まるで中世にタイムスリップしたかのような錯覚を抱くほど。 聖人像、ステンドグラスも魅力のひとつ カンタベリー大聖堂には聖人やギリス国教会のシンボルとなった人たちの像が所狭しと並び、中には現在エリザベス女王と、フィリップ殿下(エディンバラ公)を見ることもできる。 また、大聖堂内には数多の聖人が祀られており、中でも有名なのがトマス・ベケットカンタベリー大司教(1170年没)が暗殺された場所。トマス・ベケット大司教の死後、「大司教が夢に出てお告げを聞いた」「大司教が病や傷を治してくれた」などの奇跡が起き、カンタベリーへの聖地巡礼はより一層の賑わいをみせるようになったという。 トマス・ベケット大司教への巡礼に向かった人たちが、暇つぶしにそれぞれの話を語りあったのが、かの有名な『カンタベリー物語(14世紀・ジェフリー・チョーサー著)』。岩波書店から『完訳カンタベリー物語』が出ているので、興味がある人はぜひ手にしてみてほしい。 大聖堂は色鮮やかなステンドグラスも魅力のひとつ。この場所ではないが、トマス・ベケット大司教暗殺の場面もステンドグラスで見ることができる 大聖堂を見た後は、ボートに乗って市街地ツアーを そんな古都カンタベリーは、古い町並みも魅力のひとつ。石畳のメインストリートには歴史ある建造物が所狭しと並び、パブやレストランとして今なお使われている。町中を流れる川のボートツアーを利用して、ガイドの軽快な歴史トークと合わせて中世カンタベリーに思いを馳せるのも一興だ。 ボートツアーで、とくに人気なのが川に向かって飛び出した水責めの椅子「Ducking Stool」。中世イングランドでは、見せしめのための懲罰として全国各地にあったほど。その名残? なのだろうか、カンタベリーを訪れる人たちのフォトスポットとなっている。 観光用ボートの上に見えるのが水責めの椅子「Ducking Stool」。桟橋から触れることもできるが、もちろん使うことはない。なお、歴史あるパブのすぐ横にあり、酔っ払って使ったりしないのかな? と思うほど。 かつての牢獄は今はパブ!? カンタベリーの入り口「ウエスト・ゲート・タワー」 筆者は学生時代をこの町で過ごし、卒業してからも4年に一度訪れては旧友と親交を深めている。カンタベリーにいる時は昼夜問わずパブをハシゴしているが、訪れるパブのほとんどが「数百年前から続く店」「この建物は、中世に建てられたものだ」など、その都度、酔客たちの歴史話に驚く。 カンタベリーの地元民たちは、今なお使われているのが当たり前かのように歴史的建造物と接しているので、とくに貴重だという感情が見受けられないほど。「おいおい、飲みすぎて寄っかかっているその壁、歴史的価値が高いものなのでは…」と、パイントビールを片手に笑い話になることが多い。 写真下の庭園の先に見える石造りの塔は、カンタベリー市街地への門「ウエスト・ゲート・タワー」。かつては殉教者たちがこの門をくぐり、また、牢獄としても使われていたいわくつきの塔だが、今は牢屋テイストなパブになっており、若者たちで賑わう。 日本だと京都、奈良、鎌倉に近い印象を持つイギリス、カンタベリー。とは言え、街全体としてはさほど大きくなく、1時間あればぐるりと回れるほど。ロンドンからも電車で1~2時間ほどとアクセスも良好。歴史好きにはぜひともおすすめしたい。なお、パブとB&B(ベッド・アンド・ブレックファスト)が同じ店というのも珍しくないので、飲んで寝て、また飲んで、ちょっと観光もという過ごし方もアリだ。 カンタベリーの地元民たちは、今なお使われているのが当たり前かのように歴史的建造物と接しているので、とくに貴重だという感情が見受けられないほど。「おいおい、飲みすぎて寄っかかっているその壁、歴史的価値が高いものなのでは…」と、パイントビールを片手に笑い話になることが多い。 写真下の庭園の先に見える石造りの塔は、カンタベリー市街地への門「ウエスト・ゲート・タワー」。かつては殉教者たちがこの門をくぐり、また、牢獄としても使われていたいわくつきの塔だが、今は牢屋テイストなパブになっており、若者たちで賑わう。

伝統とブランド、1925年創業のトランギアが今なお愛され続ける理由

伝統とブランド、1925年創業のトランギアが今なお愛され続ける理由

アウトドアギアと言えば、今も昔もヘビーデューティーなもの。過酷なフィールドで耐えられるつくりかどうかは、登山家をはじめとしたあらゆるアウトドアズマンにとって、選びの基準になっている。とくにバックパックを背負って何日も歩くような旅では、「壊れない」「すぐに使える」「持ち運びやすい」、この3要素が非常に重要だ。   今でこそアウトドアメーカー各社から機能性にすぐれた最新のギアが数多くリリースされているが、その一方で、およそ半世紀前のギアが現役で使われているのだから、アウトドアギアはおもしろい。このトランギア製アルコールバーナーもそんなクラッシックなギアのひとつ。シンプル&タフなつくりは、時代を超えて世界中のアウトドアズマンに愛用されている。   トランギア社は、1925年にスウェーデン中部のTrångsviken(トラングスヴィッケン)で創設された。トラングスヴィッケンは首都ストックホルムから北西に約250kmに位置する小さな田舎町。彼の地で創業者John E.Jonsson(ジョン E. ヨンソン)が家庭用クックウェアを手掛けたのが同社のはじまりだ。1930年代になると、ヨーロッパ諸国で労働者の有給制度が取り入れられるようになり、スウェーデンでも余暇を自然のなかで過ごす人たちが増えた。このときから、トランギア社は野外で使えるアウトドアギアを製造販売するようになる。   1950年以降、同社が手掛ける軽くて使い勝手が良いアルコールバーナー(ポケットストーブ)、クッカー類は、スウェーデン軍をはじめ、ドイツやスイスの軍隊でも導入されるなど、市場を拡大していく。当時のスウェーデン軍で使用されていたトリプルクラウンの刻印入りビンテージは、コレクターズアイテムとして今なお人気が高い。   トランギア製品は、今も昔も創業の地、トラングスヴィッケンで製造されている。アルコールバーナーはスウェーデンの職人たちによって手作業を含む工程でつくられているため、多少の個体差があるのも味わい深い。また、長く使用しても壊れない(壊れにくい)のも、タフ&シンプルならでは。   使い続けることによってボディーの風合いが増すのも、旅の思い出を刻み続けるかのよう。ただし、中に入れたアルコールがこぼれないようにするゴムのOリングは経年劣化するので、適時交換が必要なことを付け加えておく。 準備から着火、燃焼まで、一連の所作が美しいトランギア製アルコールバーナー トランギアのアルコールバーナーは、本体(燃料タンク)、消火&火力調整用の蓋、本体用蓋の3つで構成されている。タンクにアルコールを入れ、ライターやマッチで着火。点火後、タンク内部の燃料が温められ、ほんの少し時間を置くと火口から出る炎が安定する。準備が整ったら別途、ゴトクを用意して、クッカー(鍋)などを置いて使用する。タンク2/3の燃料で約25分間燃焼するので、一回分の調理には十分。   燃料のアルコールはどの国でも手に入りやすく、世界を旅する冒険家たちが愛用するのもうなずける。重量は110g程度。アウトドア用のガス缶(OD缶)110サイズとほぼ同じの重さで、それよりもさらにコンパクトなのだから、バックパックの中に入れても邪魔にならない。できるだけ荷物を減らしたい山登りやトレッキング等で重宝するバーナーだ。 自然の音を邪魔しない、静かな燃焼音 これだけコンパクトなのに火力は想像以上。ガス缶を使用したシングルバーナーには劣るが、それでも十分許容範囲だろう。何より見た目に美しく、燃焼時の様子はうっとり見とれてしまうほど。他の燃焼器具と比べて静かなことも魅力のひとつ。自然の中で、木々や風の音、鳥のさえずりなどを聞きながら、ゆったりとした時を過ごす。傍らにはトランギアで淹れたコーヒーを。ロケーション効果を含めて、アルコールバーナーがすべてを演出してくれる。 トランギアアルコールバーナーと合わせて使いたい、人気のメスティン アルコールバーナーと合わせて用意したいのがクッカー。中でも同社製のメスティンは、軽くて使い勝手がよく、とくに人気が高い製品だ。アルミ製の箱型飯ごうメスティンは、これひとつで煮る、炊く、焼く、蒸す、燻すまでまかなえる万能調理道具。定番のレギュラーサイズは、お米がちょうど一合分炊ける大きさだ。   写真のように、アルコールバーナーとライター、フォールディングナイフに調味料などをしまっておけるので、持ち運びも楽。何よりコンパクトに収納できるのがうれしい。Instagramでは、メスティン愛好者たちが思い思いの料理写真をアップしたり、レシピサイトで自慢のメスティン料理の作り方をまとめたりしている。中には日常生活でお弁当箱代わりに使っている人も。   あまりの人気で市場在庫が少なくなり、手に入りにくい状況ではあるが、トランギア製のメスティンはアルコールバーナーと同じく、本国スウェーデンで丁寧に生産されているので、市場在庫が復活するまで待ってみてはいかがだろうか。どうせならば、トランギア製のメスティンとアルコールバーナーを。本物を持とう。

一世紀以上も変わらぬ灯り。ドイツ生まれのハリケーンランタン「Feuerhand Lantern」

一世紀以上も変わらぬ灯り。ドイツ生まれのハリケーンランタン「Feuerhand Lantern」

100年以上経った今でも、愛され続けているランタンがある。ドイツの銘品「Feuerhand Lantern (フュアハンドランタン)」は、1893年にドイツ人技師のヘルマン兄弟とエルンストニーア兄弟の手によって誕生し、1902年には生産拠点となる「Hermann Nier Feuerhandwerk」を立ち上げ、1914年に「Feuerhand」の商標を取得。一世紀以上続くロングセラー、フュアハンドランタンが生まれた。 ドイツで生まれ、今なおドイツで作り続けられているフュアハンドランタン フュアハンドランタンは「台風や嵐が吹いても火が消えない」ランタンとして評判を集め、いつしか「ハリケーンランタン」と呼ばれるようになった。当時はまだ電灯が普及しておらず、一般家庭はもちろん軍用としても重宝され、その実力は世界にも広がり、1926年には「Firehand」の商標でアメリカでも登録されるまでに成長。誕生から約30年で、名実ともに世界ナンバーワン灯油ランタンとなる。   日本でも購入できる「Feuerhand Lantern Baby Special276(フュアハンド ベイビースペシャル276)」は、当時から作り続けられている同ブランドの顔。構造はそのまま、ボディーには亜鉛メッキが施され、さまざまなカラーリングで展開されている。製造はすべてドイツHohenlockstedt(ホーエンロックシュテット)の同社工場によるもの。100年以上続く「Made in Germany」が何とも誇らしい。   フュアハンド ベイビースペシャル276の構造について見ていこう。このランタンは灯油もしくはパラフィンオイルを燃料とする。燃料が芯に染み込むことで火が灯り、温められた空気が上部から放出される。一方で新鮮な空気が両サイドのチャンパー(管)を通ってバーナーに送り込まれ、燃焼が促進される仕組みだ。 火力調整ハンドルを回すと芯(ウイック)が出てくる。毛細管現象によって灯油が芯を伝わって先端まで染み込む。 燃料として使用するパラフィンオイル。もちろん、灯油も使えるが、煤(スス)が出てしまい、後片付けにちょっと手間がかかる。高純度石油系燃料のパラフィンオイルを使えば、黒ずむこともないので楽。 シンプルな構造ゆえ、修理は専門知識なく行なえる。メンテナンスも難しいことはない。それゆえ、昔は一般家庭の必需品だったものが、今ではアウトドアズマンが好んで使うようにもなった。現在では同じくドイツを本拠地とするペトロマックス社がフュアハンド ランタンの製造権利を持っており、ペトロマックスの加圧式灯油ランタンと合わせて市場を牽引。世界中のアウトドアズマンがペトロマックス“グループ”のランタンを使用している。なお余談だが、フュアハンドと人気を二分する存在が、1840年にアメリカ・ニューヨークで誕生した「DIETZ」。こちらは現在、中国で製造されている。 アウトドアユースとしてのフュアハンド ベイビースペシャル276 昨今のキャンプブームでは、さまざまなスタイルが生まれている。まるでホテルのようなグランピングや、サバイバル的に過ごすブッシュクラフト。はたまたひとりで楽しむソロキャンプなど、実に多彩だ。テントひとつとってもかつてのオールドスクールなロッジ型、ベーシックなドーム型だけではない。   インディアンが使うようなティピー型や、まるでサーカステントのようなベル型、ツーポール型。投げるだけでそこそこ立つ、ポップアップテントなども新しい。まさに日進月歩なアウトドアシーンにおいて、化石のようなフュアハンド ベイビースペシャル276は、クラシックスタイル・ブッシュクラフト寄りの人たちに愛用されている。   LEDライトやガス&ホワイトガソリンランタンと比べて圧倒的に光量が小さい。ゆえに、メインランタンとして便利かと言えば、そうではない。キャンドルランタンと同じぐらいなのが、フュアハンド ベイビースペシャル276だ。それでも前述のような高性能ランタンだと明る過ぎる。ムードを大事にしたいという人たちが好んで使用している。   焚き火の灯りを中心に、手元を照らすのはフュアハンド ベイビースペシャル276。使うごとに風合いも増していく、まさに相棒とも言える存在。何でも高性能なものが良いわけではない。小さな灯りはそう語っているかのようだ。 ボディーの色で、火を灯したときの雰囲気も変わる。限定色も出ており、プレミアランタンとして人気が高い。2020年はパールブラックベリーだった。

モッズとロッカーズとレインボーパレードの街、イギリス「ブライトン」の魅力

モッズとロッカーズとレインボーパレードの街、イギリス「ブライトン」の魅力

イギリスと言えば「ロンドン」。多くの日本人がそう思っているはず。だがそれは「日本といえば東京」と言っているようなもので、そもそもその国の一番有名なところしか見ていない。日本各地に素晴らしい場所があるように、イギリスにも一度は訪れたい、訪れてほしい都市や街、場所が多々ある。 今回はイングランド南東部の都市「ブライトン(Brighton)」を紹介したい。かつてモッズとロッカーズの大乱闘があったこの街、今では若者文化が根付いたカルチャーの街として、多くのイギリス人の若者が憧れる場所になっている。 ブライトン駅にて。ロンドンから電車で1時間半ほどで到着する。 ブライトンを語る上でモッズとロッカーズは欠かせない 1964年、ブライトンの海岸で若者たちが大乱闘を繰り広げた。細身のスーツにミリタリーパーカーをまとい、ベスパやランブレッタなどのスクーターで移動していたモッズと、革のライダースジャケットに革パンツのスタイルで、トライアンフやノートンにまたがっていたロッカーズ。着ている服や聴く音楽、乗るバイクまで異なるモッズとロッカーズはしばしば抗争を繰り広げていた。 ブライトンの海岸で起きた両者の衝突はその最たるもので、「ブライトンの暴動」「スタイル・ウォー」と呼ばれ新聞沙汰になったほど。その後、この事件は映画『さらば青春の光』(Quadrophenia・1979年制作)となって後世に語り継がれている。 なお、2011年に作られた映画『ブライトン・ロック(Brighton Rock)』は、モッズとロッカーズの時代背景に加え、当時のブリティッシュギャングの抗争を描いたもの。両方の映画を観るとブライトンの歴史がよく分かる。余談だが、ブライトン・ロックは街で売られているお土産の“飴”のこと。金太郎飴のようにどこで切っても同じ絵柄で人気だ。 モッズvsロッカーズの大乱闘の舞台となった遊園地 観光地でもあるブライトンには遊園地「ブライトン・ピア(Brighton Pier)」がある。海のうえに迫り出すようにして建てられたこの遊園地、昼は家族連れや子供たちで賑わい、夜はカップルのデートの場所として人気だ。桟橋からの景色に「この海岸でモッズとロッカーズが抗争したのか」「この桟橋からスクーターが落とされたのか(映画・さらば青春の光より)」などを思う。 ブライトン・ピアの屋内入り口。看板の前がインスタ映えするポイント 施設内には絶叫系ほか、メリーゴーランドのような癒し系もある 「桟橋から飛び込むな」の注意看板。かつての抗争時代にはここから人やバイクなどが投げられたのだろう モッズとロッカーズの抗争があった海岸 マイノリティーに寛容な街 ブライトンでは年に一回、レインボーパレードが開催されるなど、LGBTなどのマイノリティーに対して理解がある街としても有名。肌の色も話す言葉も、性別さえも超えた「人としての尊重」をとても大事にする傾向にある。レインボーパレードが開催されている期間は街全体がお祭り状態。世界各国から人々が参加し、パレードで盛り上がり、パブでさらに盛り上がる。 世界中から参加者が集まるレインボーパレード。パレードの最中は人混みでぎゅうぎゅうな状態。それでもみんな楽しそう ブライトン博物館&美術館(Brighton Museum & Art Gallery)前にて。イギリス国内で最古の美術館としても有名な美術館も、レインボーパレードの日ばかりはお祭りモード モッズとロッカーズが抗争を繰り広げたブライトンの街は、今ではイギリスで一番ラブ&ピースな場所として人々に愛されている。それでもブライトンが今も昔もカルチャーを生む若者の街なのは変わらない。ロンドンも良いけど、1時間ちょっと足を伸ばしてブライトンを訪れてみては。 海岸沿いを走るヴォルクの電気鉄道(Volk’s Electric Railway)。1883年に運行された世界で最も古い電気鉄道だ。鉄道好きにもブライントンの街はおすすめ Author: 早坂英之

「フィッシュ・アンド・チップス」で知るイギリスにおける伝統的なパブの楽しみ方

「フィッシュ・アンド・チップス」で知るイギリスにおける伝統的なパブの楽しみ方

今も昔もイギリス人にとっての憩いの場所、それがパブ(Pub)。どんなに小さな町や村にも必ずパブがあり、その数は日本でのコンビニエンスストア以上だ。それらパブの多くが古い建物の中にあるのは、地震などで建物が倒壊することなく、かつ、古さや歴史を重んじるイギリスならではだろう。 イングランド南東部に位置する都市、ブライトンにあるパブ「THE HARTINGTON」。文字が崩れ落ちて、地元の人からは「HE TIN TON」と呼ばれている。 もし、現地でパブに行く機会があったら建物のなかにも目を配ってみてほしい。ビール片手に中世からの傷や(おそらく)かつての落書き跡などを、想像を膨らませて見つけるのも一興だ。 日本人にとってあまり身近な存在ではないため、「パブって大人がお酒を飲むところでしょ?」と思っている人が多いかもしれない。お酒を飲むところはそのとおりだが、イギリス人にとってパブは、居酒屋でもあり喫茶店でもレストランでもある。 イングランド南東部ケント州カンタベリーにあるパブ「The Dolphin」の中庭にて。 日中に子どもを連れてパブランチして、食後に休憩がてらパブでお茶して、夜は「誰かいるかな?」と、のぞいてみるのがパブの正しい使い方。夜のパブは何件かハシゴするのが当たり前なので、一日に何度もパブに行く。それだけに、イギリス人にとってはなくてはならない存在だ。 大学の構内にもあるパブ イギリスの法律では18歳からお酒を飲むことができる。そのため、大学の構内(校舎内)にはスチューデントパブがあり、日夜学生たちの憩いの場所として利用されていて、非常に活気がある。いくつもの校舎や寮があるような大きな大学では、それぞれにパブがあって、学部棟ごとのパブハシゴも楽しい。 イギリスの大学は「入るのは日本や韓国よりも難しくないけれど、卒業するのは困難」と、言われているが、パブに入り浸り過ぎて勉強がおろそかになっている学生も一定数いる。 お店の人気を左右するパブランチ フィッシュ&チップスのマッシーピー添え。衣がクリスピーでむちゃくちゃ美味しい。 パブの定番ごはんと言えば、フィッシュ&チップスとサンデーミール。フィッシュ&チップスはご存知イギリスの国民食で、タラなどの白身魚にビールを混ぜた衣を付けて、カリッと揚げたもの。そのフライに大振りなポテトフライを添えて、ビネガーをたっぷりかけて食べるのがイギリス流。なお、日本のファストフードなどで食べる細い形状のいわゆるポテトは「フレンチフライ」と呼ばれる別の食べ物だ。 このフィッシュ&チップスと一緒に食べる、マッシーピー(Mushy Peas)も人気が高い。グリーンピースを潰して味付けしたもの。ミントを混ぜることもあり、香りや風味の良さが魅力。オイリーなフィッシュ&チップスに添えることで、一服の清涼剤的な効果もある。 フィッシュ&チップスはどのパブでも看板メニュー。それだけに「うちのがナンバーワン」「この町で一番の味」と、パブの従業員はもちろん、常連客までもが胸を張る。 パブ以外にもフィッシュ&チップス専門店は街中に無数にあり、ケバブでも深夜まで売っているほど。夜にパブをハシゴして、締めのラーメンならぬ、締めのフィッシュ&チップスもイギリスならでは。ビネガーを浸すぐらいたっぷりかけて、むせるぐらいがちょうどいい。 イギリスの大学は「入るのは日本や韓国よりも難しくないけれど、卒業するのは困難」と、言われているが、パブに入り浸り過ぎて勉強がおろそかになっている学生も一定数いる。 ブライトンの街並み。ちょっと歩けばすぐにフィッシュ&チップス屋さんが見つかる。 一方のサンデーミールは日曜日のお昼に家族でパブごはんする定番メニュー。ローストポークやローストチキンに、シュークリームの皮のようなヨークシャープディングを添えて、肉汁たっぷりとグレイビーソースをかけて食べる、ボリューミーなプレートだ。 イギリスの代表的なサンデーミール。ボリュームたっぷりなワンプレートは、ビールとの相性抜群! ヨークシャープディングをグレービーソースに浸しながら食べる、とにかく食べる。 大抵のパブでは前日までの事前予約が必要。パイントビール(568ml)片手にもりもり食べていると、お店の人が「ヨークシャープディングもっと食べる?」と、サービスしてくれることも。 日本では小さいころから居酒屋に行くことはまれだが、イギリスでパブはごはんを食べる場所でもあるので、子どものころから馴染みが深い。フィッシュ&チップスやマッシーピー、サンデーミールを食べていた子どもたちが、大人になってビールを飲みながら、友だちとワイワイ楽しむ。そのパブには共通してルールがあるのを、ご存知だろうか。 子どもも大人も、日曜日のお昼はみんなでわいわいパブミール。 パブのオーダーは目配せ気配せ 平日週末問わず賑わうパブでは、カウンターまわりに注文待ちの客がわらわらと集まる。どのパブでもその場で注文して、商品と引き換えにお金を支払うキャッシュオンデリバリー方式が基本だ。とはいえ、そのカウンターで飲んでいる人もいるので、パッと見、誰が注文待ちなのかわかりにくいもの。もちろんきれいに並ぶということはない。 では、どのようにして注文できるかというと、お客さん同士でだいたいの順番を理解しており、「Who’s next?(次はどなた?)」「Yes, I am. / me.(私です)」「After you.(お先にどうぞ)」など、声をかけながらオーダーが進む。強引に割り込むとまわりにも迷惑がかかり、何しろ他の人の目線が痛い。注文するためにカウンター近くまで行ったら、まわりの状況を見ながら自分の番を待つべきだ。 また、複数人でパブに行ったら、誰かひとりがまとめて注文しにいくのもパブルール。その際、「My Turn.(僕の番ね)」と声をかけて、人数分おごるのが注文しにいく人の役目。2杯目になると他の人が「My Turn.」「Your Turn.」になって、それが3杯目、4杯目となって、仲間内みんなでおごり合う。そのため、飲み干すスピードを合わせるのが重要で、早い人がいると全員のピッチが自然と上がる。 4人で行って4杯飲んだら(全員がターンを終えたら)、次のパブに向かって、そこでも同じターンの繰り返し。それを2軒3軒と繰り返すうちに、お腹がたぷたぷになってきて、もう量は飲めない! となったときにはショットで乾杯&グイッと飲み干す(繰り返し)。ふらふらになりながら、深夜にケバブでフィッシュ&チップスをオーダーして帰路につく。 もちろんこれは極端に「飲む!」という例だが、それでなくても2軒3軒は当たり前。それでも酔いつぶれる人が少ないのは、イギリス人は体質的にお酒に強いのだろう。なお、パブや道端で酔いつぶれるのはマナー違反なので、飲み過ぎには気をつけるべき。ターンもそこそこに「I’m enough.(限界です)」も必要だろう。もちろん、次の日もパブタイムがあるのだから。…