最後の自然吸気「ストレート6」を積む 切れ味鋭いピュアスポーツクーペ<BMW「M3」(E46)>

最後の自然吸気「ストレート6」を積む 切れ味鋭いピュアスポーツクーペ<BMW「M3」(E46)>

突然だが、BMWと聞いてどんなことを思い浮かべるだろう? 高級車、高性能セダン、はたまた昨今人気のSUV…と、その答えは十人十色だろうが、BMWマニアやクルマ好きの中には “直列6気筒エンジン“を思い浮かべる人も多いのではないか?

 

“直6”や“ストレート6”とも呼ばれる直列6気筒エンジンは、BMW車を語る上で外せない存在だ。同社が直6を初めて手掛けたのは1933年のことで、BMWにとって初の自社開発オリジナルモデルとなる「303」に、2リッターの直列6気筒エンジンが搭載された。ちなみにこの303、直6と並ぶBMWの象徴であるフロントの“キドニーグリル(Kidney=腎臓)”を初めて採用したモデルでもあり、まさに記念碑的な1台といえる。

 

そして第二次世界大戦後、他社が大型セダン向けにV型8気筒エンジンの開発に舵を切る中で、BMWはそれまでと同様、直6の開発を推進。新しいフラッグシップセダンに搭載された2.5リッターの直列6気筒エンジンは市場で高い評価を得る。以降もBMWは、ストレート6開発の手を緩めることなく、現在に至るまで数々の名機を世に送り出してきた。

 

しかし、他メーカーも同様の構造・機構を持つエンジンを開発・製品化してきたにもかかわらず、なぜBMWだけ評価が抜きん出ているのか? その秘密は、BMWのストレート6が、格別な回転フィールを備えているからにほかならない。直列6気筒エンジンというのは、理論上、慣性力に起因する振動などが発生しない“完全バランス”の上に成り立つユニットだが、特にBMWのそれは、どこまでも回りそうなくらいスムーズな回転上昇と、優れた静粛性で他社を圧倒した。そのシルクのように滑らかな回転フィールは絶品で、人々は称賛の意味も込め“シルキーシックス”と呼んできた。

 

そんなBMWの直6を語る上で、どうしても外せない1台がある。それが、名機を搭載した3代目(E46型)の「M3」だ。

M3の初代(E30型)は、市販車をベースとするマシンで争われるツーリングカーレースへ参戦すべく、スポーツセダンの「3シリーズ」をべースに誕生。以降、現在に至るまで、M3は一貫して同社のモータースポーツ部門である“BMW M”社が開発を担うなど、BMWのレースフィールドでの活躍と深い関係にある。

 

そんな由緒あるM3の歴代モデルの中で、今回、E46にフォーカスした理由は、このモデルに搭載される直列6気筒エンジン“S54B32”の存在にほかならない。実はこのユニットは、現時点において、“BMW最後の”自然吸気式ストレート6なのである。

M3に直列6気筒エンジンが搭載されたのは、2代目となる“E36型”から。デビュー当初、2990ccだったE36のストレート6は、後期モデルで3201ccへと排気量を拡大、さらに、E46への進化に際し、3246ccとなっている。このS54B32ユニットは、吸排気系のバルブタイミングをコントロールするBMW独自の“ダブルVANOS”や、エンジン内部の摩擦抵抗の徹底的な軽減など、F1参戦で培った技術を余すところなく投入することで、最高出力343馬力、最大トルク37.2kgf-mを発生。しかも、最高出力の発生回転数がレッドゾーンぎりぎりの7900回転という超高速型のユニットだった。

 

実際、ドライブしてみると、このストレート6はパワーの出方とレスポンスの良さが強烈で、レッドゾーンが始まる8000回転まで、まさによどみなくパワーが盛り上がり続ける印象。特に、高回転域におけるエンジンの存在感は圧倒的で、野太いエキゾーストノートを奏でながらM3をハイスピード領域まで誘っていく。

ターボチャージャーで過給したり、モーターでアシストしたりした最新のエンジンは、確かに力強くて速く、それでいて街中などでもあっけないほど乗りやすい。これは、燃費や運転のしやすさなどを考慮した結果、低~中回転域での力強さを重視したセッティングになっているためだ。

 

しかしその分、高回転域ではパワーの頭打ちを感じることが少なくないし、過給器やモーターによる“ドーピング”のせいか、時にパワーの出方が不自然に感じることもある。現在、BMWが展開する直列6気筒ガソリンエンジンも、ターボで過給されたユニットだ。もちろん、ライバルの心臓部と比べれば格段にスムーズかつ力強いのだが、回せば回すほどパワーが湧き出る印象のS54B32と比べたら、官能性でどうしても見劣りしてしまう。

 

一方、S54B32という名機が積まれたE46のボディも、随所にこだわりが感じられる仕立てだった。実は、E46は前身のE36に対し、車重が100kg以上も重くなっていた。E30の生い立ちを知り、E36の軽快なフットワークを評価していた口さがない一部のカーマニアたちは、重くなったE46を見て「M3は終わった」とさえ揶揄したほどだ。

 

しかし、歴代M3の開発を担うBMW M社には、多少重くなってでも追求したいE46の開発理念があった。それは、追い上げ激しいライバルはもちろんのこと、ひとクラス上のスポーツカーをも凌駕する目覚ましい走行性能の実現だ。そのために開発陣は、E36からE46への進化に際し、ボディ剛性を引き上げ、車体の耐久性を高め、足回りをしっかり固めるなど、走りを司る“基本のキ”を徹底的に磨き込んだのだ。

強固なボディと足回りを手に入れ、重量アップのネガも強力かつ官能的なS54B32で補ったE46型M3は、超高性能スポーツクーペとして世界的に高評価を獲得。さらに、2003年に登場したハイパフォーマンス仕様「CSL」では、C=クーペ、S=スポーツ、L=ライトウエイトの頭文字からとられたネーミングからも明らかなように、カーボンファイバー製のルーフやドアトリムを採用した上に、多くの快適装備をはぎ取ることで軽量化を徹底。そこに、360馬力にまでパワーアップされたストレート6を組み合わせることで、市販車開発の聖地とされるドイツ・ニュルブルクリンクの北コースにおいて、7分50秒という当時の最速タイムをマークしてみせた。

このように、官能的な走行フィールはもちろん、絶対的な速さも身につけたE46のM3には、省燃費や環境への配慮を重視するあまり現代のクルマやエンジンが失ってしまったドラマが息づいている。そして、その走りの核となるBMW謹製ストレート6は、BMW=“バイエリッシュ・モトレーン・ヴェルケ(バイエルンのエンジン工場)”の意地と情熱の結晶といえるだろう。

TEXT/アップ・ヴィレッジ



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