ペーパードリップはメリタ「コーヒーフィルター」から始まった

ペーパードリップはメリタ「コーヒーフィルター」から始まった

コーヒーサーバーやマグカップの上に置き、紙のフィルターをのせて挽いた粉を入れる。そしてお湯を注いで、ゆっくりコーヒーを抽出する。ドリップコーヒーに欠かせないもの、それが“ドリッパー”だ。

 

世界的に見てもドリップコーヒー大国である日本。欧米ではエスプレッソが主流だが、日本では長くレギュラーコーヒーと呼ばれるドリップしたコーヒーが親しまれている。そしてドリップ時に使う器具として現在広く使われているのが、ペーパーフィルターを使うドリッパーだ。

ドリッパーは大きく分けると台形型と円錐型のふたつになるが、歴史があるのは台形型。その原型となるのが、1908年にドイツで誕生したものだ。ドイツ・ドレスデンに住む主婦、アマリー・アウグスト・メリタ・ベンツが「もっと手軽においしいコーヒーを夫に飲ませてあげたい」という想いから、小さな穴をあけた真鍮製の容器にろ紙とコーヒー粉をのせ、お湯を注ぐ方式を生み出した。

この方式は、それまでの布や金網で抽出したときのように粉が入ってしまうことがなく、後片付けも簡単。さらにろ紙が雑味を吸うことで、おいしさも向上した。これが現在も使われているペーパードリップの始まりとなる。

 

彼女が設立したメリタ社はその後、息子のホルスト・ベンツに引き継がれ、フィルター(メリタではドリッパーのことを“フィルター”と呼ぶ)もさらに改良。そして1937年に、現在のような溝がついた形状で特許を取得する。

メリタのフィルターを見ると、底にある抽出口は1つだけだが、当初は8つも開いていたという。しかし味に満足できなかったホルストは改良を重ね、1960年に現在と同じカタチの1つ穴フィルターに行き着く。

 

ドリッパーは、傾斜角度、溝の数や形状、穴の数や大きさの違いで、抽出するコーヒーの味わいが変わってくる。メリタは台形型で1つ穴だが、同じ台形型でもカリタは3つ穴。そしてハリオのV60やコーノの名門ドリッパーは穴が大きい円錐型だが溝の形状が異なる。どれもペーパーフィルターを使って抽出するという点では同じだが、それぞれ異なるアプローチで作られている。しかしどれもペーパーフィルター方式であり、メリタの“コーヒーフィルター”から派生したものなのだ。

メリタの特徴は、なんといっても安定した抽出ができることだ。蒸らしのあとは、抽出したい量を一気に注ぎ、あとは落ちるのを待つだけ。ドリップ初心者でも常に同じ味わいのコーヒーを淹れられる。抽出口が小さく1つだけなのでお湯抜けが遅く、お湯とコーヒー粉が長時間接するため、どっしりとした味わいになる。

 

100年以上前に最愛の夫のためにと生まれたペーパードリップ方式は、今も多くの人に愛用されている。誰が淹れても安定したおいしいコーヒーを淹れられる。これこそまさに、メリタ・ベンツの想いが時を超え、愛され続けている理由なのかもしれない。

円道秀和



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