「バンクシーで振り返るイギリスのストリートアート文化」

「バンクシーで振り返るイギリスのストリートアート文化」

街そのものをキャンパスとして、道路や壁、標識などに落書きするグラフィティアート(ストリートアート、ミューラルとも)。文字や記号、絵など、その手法はさまざまで、無許可でペンキやスプレーで描くことから迷惑行為とも違法行為ともされてきた。そのため、グラフィティアートの多くは人目に触れない深夜にひっそりと行なわれ、ほとんどのアーティストは正体を隠して活動している。

 

世界で一番有名なグラフィティアーティスト、バンクシー(Banksy)も、正体不明な人物のひとり。彼について分かっていることと言えば、イギリス西部の港湾都市、ブリストル(Bristol)出身だということ。顔はおろか、どんな経歴で何のために絵を書いているのか、バンクシー本人とその側近以外は誰も知らない。ただひとつだけ分かるのは、彼の作品は社会に対しての風刺であり、皮肉を込めたメッセージだということ。

 

そんなバンクシーの作品は、イギリスはもとより世界中で見つかっており、中には約1億5500万円もの値段がオークションでついたものもある。とはいえ、バンクシー自体はオークションによって高値で売買されることを是とせず、落札後された絵が額縁に隠されたシュレッダーで粉々になるというパフォーマンスも行なっている(オークション会場のサザビーズでは、突如シュレッダーが動き、皆があっけにとられたほど)。

バンクシーといえばネズミが有名だが、ショッピングカート(Trolleys)を題材にすることもある。「Trolley Hunters」
パレスチナ問題を抱えるイスラエルの壁に突如として現れた「Flower Bomber」。火炎瓶の代わりに花束を。
警察から職務質問を受ける、オズの魔法使いのドロシー。「Stop & Search」

日本でも小池百合子都知事がバンクシー作品と思われるネズミアートと記念撮影をしたり、横浜や大阪で『バンクシー展 天才か反逆者か』が開催されたりなどバンクシー人気は高い(横浜会場は2020年3月15日~9月27日、大阪会場は2020年10月9日~2021年1月17日まで)。

バンクシー展より、本人をイメージした展示物。バンクシーは常にパーカーのフードをかぶっており、投稿動画でもシルエットだけ分かる。

グラフィティアートで巡る、イギリスの旅

バンクシーのみならず、イギリス、特にロンドンは世界的に見てもグラフィティアートが盛んな場所。建物の所有者が落書きではなくアートとしてあえて残したり、公共の場所で合法的にグラフィティアートが許可されたりしている場所もある。

 

そのクオリティは非常に高く、観光客がアートを前に写真撮影する光景も珍しくない。写真はロンドン東部の街、ブリックレーン(Brick Lane)の巨大グラフィティアート。移民の町としても知られるブリックレーンは、いつしか労働者、学生、アーティストなどが集まるようになり、カルチャーの発信地として注目されるようになった。そのひとつが街の至るところに描かれたグラフィティアートで、有名になる前のバンクシーの作品が残っているほど、街全体がアートに対して寛容的だ。

Crane on Hanbury Street, Brick Lane London

建物の側面に大きく描かれたこのグラフィティアート。右のサギはベルギー出身のアーティスト、ROAによるもの。ROAは動物を専門に描くことで有名で、ヨーロッパやアメリカでも彼の作品を見ることができる。

 

そのすぐ左に並び描かれているのは、アルゼンチン出身のMartin Ronによるブレイクダンスを踊る衛兵「HAPPY HOUR」。両作品ともブリックレーンを代表するグラフィティアートとして人気を集めている。

 

ROA unofficial fan page on Facebook : https://www.facebook.com/ROAStreetArt

Ron Muralist | Official Site : https://ronmuralist.com.ar/

古きよき街並みにグラフィティアートがよく馴染む

古いものを大事にするイギリス人にとって、中世の時代から続く建物はざらにある。日本では歴史的建造物として保管されそうなものが、イギリスでは普通に人が住んでいるというのもよくある話。B&B(民泊)やパブとしても利用されている。

 

驚くことに、古くから残る建物にグラフィティアートが描かれていることもしばしば。日本人にとっては考えつかないことでも、イギリス人にとっては当たり前のことで、レンガ造りの建物もペンキやスプレーで描かれたアートもすべて含めて街の景観となっているのだから、懐の深さを感じる(もちろん、アート性がないものはイギリス人でも怒る。家のガレージにスプレーでFXXKなど書かれると即通報するレベル)。

 

ロンドンをはじめ、至るところで見られるイギリスのグラフィティアートカルチャー。名もなきアーティストの作品を見るうちに、「もしかしたら未来のバンクシー?」「あれ? これってバンクシーじゃない?」と、空想を膨らますのも一興だ。ありきたりのイギリス旅では満足できない人はぜひ試してみてほしい。

ロンドンのマイル・エンド地区にて撮影(Mile End)。長いトンネルの端から端まで、グラフィティアートで埋め尽くされている。
ブライトン(Brighton)の一角にて。バイオリンを弾く男の足元にはバンクシーの象徴でもあるネズミが…と、思いきや、バンクシーとは異なるサインとアナーキーマークが。


Leave a Reply