海軍発祥の機能美と歴史が魅力な「Pコート」の基礎知識

海軍発祥の機能美と歴史が魅力な「Pコート」の基礎知識

■ピーコートの「ピー」って何?定番すぎて知らなかったピーコートの歴史

スーツとの相性もよくカジュアルに合わせても上品な印象を与えてくれることから人気の定番アイテム「ピーコート」。

 

元々は19世紀末から英国海軍が艦上用の軍服として着用していた防寒服が由来で、フランス・ブルターニュ地方の漁師たちも愛用していたと言われています。

そのため変化が激しく厳しい海上の気候条件においても、海軍の兵士や漁師が効率的に活動するための機能性が重視されたコートです。

 

「ピーコート」の「ピー」という言葉の由来は諸説あり、オランダ語の「pij jekker(ピーヤッケル)」という厚手のウールコートという言葉の「piji」の頭文字からとったという説と、「錨(いかり)の爪」を意味する「Pea」の頭文字からとったという説があります。

■Pコートを定義する5つのディテール

フィデリティのPコート/3万2780円(アイメックス)

タイトシルエットと上品なデザインからオン/オフで使えるの大人のショートコートとして人気のピーコートですが、ダブルブレストでショート丈ならピーコートかというとそういう訳ではありません。意外と知られていない5つの特徴的なディテールからピーコートは成り立っています。

ポイント①「ラペル」

ピーコートの一番の特徴である大きなラペル。正式名称はありませんが、形状が近いことから一般的に「リーファーカラー」と呼ばれています。風や波音・船の騒音などで声が聞き取りづらい甲板上で、襟を立てて集音効果を高めることを目的として大きく設計。機能性を重視したデザインは結果的にエレガントで上品な印象を与える要素になっています。

ラペルの下襟はボタンで留めることが可能。上まで留めることで防寒性と防風性を高めてくれます。

集音効果を高めるために大きく作られた上襟。チンストラップもついていることから防寒目的でも使われていたことがわかります。

ポイント②「ダブルブレスト」

海上において避けて通れないのが激しい風。そのため、ピーコートは防風性を高めるたにダブルブレストを採用。また、ダブルブレストにすることで左右どちらの身ごろが上前でもボタンが締められる設計になっており、あらゆる方向から風が吹く船上の環境下でも防風の役目を果たします。

 

最近ではシングルブレストのピーコートも見かけたりしますが、本格的なピーコートを求めているならダブルブレストは外せないポイント。フロントボタンの数は8〜10個が定番です。

ポイントメルトン素材

ピーコートの定番は厚みがあって柔らかい手触りと高い保温性が特徴のメルトン素材。ウールを縮絨することで隙間をなくして作られた高密度で重厚感のあるウール生地のことで、ウールながら防風性が高く保温力もあるため、冬コートの素材として人気です。

 

タフで長持ちする反面、隙間なく作られている素材はコート自体が重たくなるというデメリットもあります。ちなみに、ピーコートの定番色はネイビーですがこれは海の色の保護色として採用されているためです。

ポイントマフポケット

垂直に切り口が入ったデザインが特徴の「マフポケット」は「ハンド・ウォーマー・ポケット」とも呼ばれ、寒い甲板の上で手を温めるために作られたディテールです。両側から腹部のあたりに手を入れられるようになっているため、ちょっと高めの位置に設計されているのもポイント。マフとは毛皮でできた円筒形の防寒具のことで形が似ていることから「マフポケット」と呼ばれています。

ポイントボタン

海軍の象徴である錨(いかり)のデザインがあしらわれたボタンもピーコートの特徴の一つ。初期は木製のものが多く使われていましたが、最近ではプラスチックのものが主流に。写真のこのボタンはアメリカ製ピーコートの定番ブランドであるフィデリティのもの。

 

1930年代の米軍大戦モデルをモチーフに、アメリカ建国時の13州からくる13スターが刻印された錨ボタンです。イギリス製の場合は錨の周りに星のデザインはなく、国やブランドによる錨ボタンのデザインの違いを楽しめるのもピーコートならではの魅力です。

タイトフィットでスタイルがよく見えることから冬のショートコートとして人気のピーコートですが、その上品なデザインは海軍の過酷な環境をより快適に過ごすために考えられた機能美によるもの。歴史を知ることでそのアイテムにもっと愛着が湧いてくるのもメンズウェアならではの魅力であり醍醐味です。

TEXT & PHOTO/宇田川雄一



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